
Mekon Delta,Vinh Long,Vietnam,2002
随分前に本屋で開高健の『オーパ!』という単行本を見た。アマゾンの釣紀行なのだが、その本には写真がふんだんに使われており、値段もそれなりであった。その時はあきらめ、1年くらいして文庫になっているのを見つけ買った。文庫本にしてはいい値段だったと思う。定価580円。まだ同じ装丁のものが売っている。20年分の物価上昇率が加わっている。amazonの書評にも書いてあったと思うが、文庫本のサイズになっても、その本のエッセンスは失われていない。この本を読んで、この作者に興味を持ち、次に『輝ける闇』を読んだ。ベトナム戦争を題材にした小説である。
「輝ける闇」という言葉はもともとハイデガーが使った言葉で、この言葉に惹かれ何を意味するのか知りたいと思った。だが、この小説には共感できなかった。少なくともその答えにはなっていなかった。実に残酷なことだが、それ以後この作家への興味は完全に消え、ハイデガーがもと使った文脈での「輝ける闇」の意味を知りたくなった。その当時、ハイデガーの著作を読んでも理解できるはずもなく、それは今もなのだが、やがてその追求は忘れてしまった。
最近、本屋で何かのフェアなのか、『輝ける闇』が店頭に並んでいて、その存在を思いだし、再び読んで見た。実は数ヶ月前、ベトナムに旅行する前に、そういう本もあったことを思い出していたのだが。感想は、以前とあまり変わるものではなかった。小説ということを意識してしまったためだろうか。米軍側からの取材という立場が違和感を感じさせるのか。ベトナム戦争を扱った、主にアメリカの小説や映画では、ジャングルの狂気が前面に押し出されるが、そんなものは全然問題にならないと思う。キーに据えられるべきは、コミュニズムであり思想である。ジャングルが混沌としているのではなく、それがアメリカの言葉や思想の混乱を鏡のように映しただけだ。ハノイの革命博物館の歴史の説明では、各人種を笑ってしまう程単純にカテゴライズしている。ベトナミーズコミュニスト、フレンチコロニアリスト、ジャパニーズファシスト、そしてアメリカンインペリアリスト。
20年前の『オーパ!』の文庫本をパラパラっと眺めてみたが、これは以前にもまして、最高のままであった。むしろ輝きを増しつつある。実はそんなことはないのだが、アジアや世界のどこでも、サーチライトや照明弾で照らされたように明るい。闇というものがまだあるのならば、この本のなかでアマゾンは、黒いぬめりで覆われたピラーニャのダイヤモンドのようにゴロゴロした歯や、雨期の夜空を突然切り裂く稲妻のように、世界の暗さ、冥さと強度ある光を同時に留めている。(2017/10/8)
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